東京慈恵会医科大学大学院
医学研究科
医科学専攻修士課程
遺伝カウンセリング学

遺伝カウンセラー

遺伝カウンセラーは、遺伝やゲノムの関わる患者に向き合っている患者や家族に、正確な情報提供と心理社会的支援によって正しい理解や適応、そして必要な意思決定を手助けする保健医療の専門職です。
遺伝カウンセラーは、最新の遺伝・ゲノム医学、カウンセリング技術や理論、医療の知識と優れたコミュニケーション能力を必要とします。
遺伝カウンセラーは、医療機関で遺伝カウンセリングをチーム医療の枠組みで担当し、さらに各医療機関の特徴によって様々な横断的な役割を担当します。

我が国では、2005年より認定遺伝カウンセラー制度が開始され、初めての専門職としての認定遺伝カウンセラーが誕生しました。
認定遺伝カウンセラー制度委員会によって認定された大学院の専門養成課程を修了すると、認定遺伝カウンセラー認定試験の受験資格を得ることができます。
認定遺伝カウンセラー認定試験に合格すると、認定遺伝カウンセラー®︎の資格を取得できます。
現在、認定遺伝カウンセラーは、大学や個人の医療機関での遺伝カウンセリングを提供するのみならず、遺伝子検査関連企業、遺伝性疾患の治療のための製薬企業、大学教員、国や政策や患者支援団体などで幅広く活躍をしています。
なお、“認定遺伝カウンセラー®️”は、一般社団法人日本遺伝カウンセリング学会と一般社団法人日本人類遺伝学会により商標登録されています。

遺伝カウンセリング

遺伝カウンセリングについてのイメージ

遺伝カウンセリング(genetic counseling)という概念は、1947年にアメリカの分子遺伝学者のSheldon Reedが初めて提唱しました。その際、Reedは、“a kind of genetic social work without eugenic connotations”として、その当時までの優性思想からの決別を示しています。我が国では、1970年代に、「遺伝相談」という用語で、「遺伝カウンセリング」の普及が始まったとされます。

遺伝カウンセリングとは、医療保健の場において、クライエント(患者)とその家族の目的に応じて相手の気持ちを配慮しながら、相手が理解出来るようにわかりやすく、正確な情報の提供をおこない、その情報を理解したクライエントの意思決定を支援する対話のプロセスです。
すなわち、遺伝カウンセリングは、「情報提供」と「心理社会的援助(カウンセリング)」によって意思決定を援助することです。一般には、臨床遺伝医療の一環としておこなわれ、そのなかで最も特徴的な医療行為といえます。
遺伝カウンセリングにおいて重要な点は、正確かつ最新の「情報提供」が行われることです。それがあって初めて納得ゆく意思決定と心理支援が可能になります。これが、いわゆる心理カウンセリングや心理療法とは異なるユニークなところです。
実際の遺伝カウンセリングでは、「情報提供」だけで遺伝カウンセリングのセッションが終わることもあれば、初めから、ひたすらクライエントの話を聴くだけ、すなわち「心理社会的援助」のみで終始するセッションもあります。このバランスは、クライエントの背景や遺伝カウンセリングの目的によって臨機応変に変化します。
また「情報提供」の内容は、疾患やそのクライエントの状況によって異なります。疾患の医学的ことのみならず、実際の生活やその家族の様子、さらに社会資源、支援団体の情報なども含まれます。一方、「心理社会的援助」、いわゆる「カウンセリング」の側面も状況によって異なります。必要に応じて、心理支援の専門家と共に対応したり、紹介を行うこともあります。

遺伝カウンセリングの定義

遺伝カウンセリングの定義として、現在、最も広く引用されるものが、2006年に、米国遺伝カウンセリング学会(National Society of Genetic Counselors)の策定したものです。この定義は、2011年の日本医学会による「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」(2022年3月改訂)に引用をされています。

遺伝カウンセリングの定義

遺伝カウンセリングは、疾患の遺伝的要因がもたらす医学的、心理的、家族的影響に対して、人々がそれを理解し適応するのを助けるプロセスである。このプロセスは、以下の項目を統合したものである:

  • 疾患の発症や再発の可能性を評価するための家族歴と病歴の解釈(Interpretation)
  • 遺伝形式、遺伝学的検査、治療・健康管理、予防、社会資源、研究についての情報提供(Education)
  • インフォームド・チョイス、あるいは、リスクや疾患への適応を促進するためのカウンセリング(Counseling)
    (National Society of Genetic Counselors’ Definition Task Force、 Resta R、 Biesecker BB、 et al: A new definition of Genetic Counseling: National Society of Genetic Counselors’ Task Force report。 J Genet Couns、 15:77-83、 2006より)

遺伝カウンセリングの状況

すべての診療に私たちの遺伝情報が必須になるなかで、遺伝カウンセリングは、様々な状況で行われます。現在、大きく以下の3つに分類されます。

  1. 生殖に関する(周産期)遺伝カウンセリング
  2. 小児領域の遺伝カウンセリング
  3. 成人発症疾患の遺伝カウンセリング
この分類は、遺伝要因の関わる疾患の発症の時期、遺伝カウンセリングの対象者、意思決定の担い手の違いから分類されています。

遺伝カウンセリングの担い手:認定遺伝カウンセラー

1975年に初めてアメリカ人類遺伝学会により、遺伝カウンセリングの定義がなされた際には、その文中に「appropriately trained persons」が担当すると述べられました。遺伝カウンセリングの実践には、日進月歩の遺伝医学の専門知識、疾患の自然歴、治療、健康管理、福祉面などの医学的知識に加えて、カウンセリングの知識、コミュニケーション・スキルが必要とされるので、この「適切な教育訓練を受けた」「専門職」が担当するということは重要になります。
北米では、1969年から大学院修士レベルにおいて、遺伝カウンセリングを担当する専門職、遺伝カウンセラーの養成が始まり、現在、北米では34のそれぞれに特徴を有した大学院プログラムが開講されています。現在、約3000名の遺伝カウンセラーが資格認定されており、医師と協働し、時には単独で遺伝カウンセリングを提供しています。
また、英国では、従来、看護職が遺伝カウンセリングを担当していたが、我が国でも、遺伝医学、臨床遺伝医療に関する専門的な知識を有した看護職がチームの一員として遺伝カウンセリングを担っています。
我が国では、遺伝カウンセリングの専門家の認定制度として、臨床遺伝専門医制度と認定遺伝カウンセラー制度があります(両制度ともに日本人類遺伝学会と日本遺伝カウンセリング学会による学会認定制度)。我が国の遺伝カウンセラーは、2005年より資格認定が開始され、現在は、専門養成修士課程を修了することによって認定遺伝カウンセラー認定試験受験資格を得ることが可能です。看護師や臨床検査技師、薬剤師、栄養士など医療職の資格保持者の他に、生命科学系、農学系、心理系、教育系など様々なバックグラウンドの認定遺伝カウンセラーが活躍を始めています。詳細は、認定遺伝カウンセラー制度委員会のウェブサイトを参照ください。

遺伝カウンセラーのイメージ